バリュー株のシンプル分析基礎
バリュー株を見つけるには、「市場の評価と今〜将来の企業価値」を比較します。
企業の価値を判断するため、グロース投資より難解です。情報の優先順位は下記の通りです。
- 1次情報(業績、企業価値)
- 市場の空気感(テーマ性、話題性、期待値、注目度が低いか)
1) 1次情報について
1次情報は次の情報源から確認することができます。
業績
業績は過去から現在の決算内容から確認できますが、この記事にもある通りバリュー投資においては決算の取りこぼしは致命的ではありません。
企業価値
■ 損益計算書(P/L)から確認できること → 経営の上手さ
損益計算書とは決算書の1つで、一定期間の会社の経営成績を表しています。 売上とそれに掛かった諸々の費用、利益が表示されています。
■ 貸借対照表(バランスシート:B/S)から確認できること → 財務健全性
略称 | 英称 | 観点 | 指標 | 目安 |
---|---|---|---|---|
PBR | Price Book-Value Ratio | 純資産(ストック) | 純資産と株価から安全性が分かる | 1倍〜5倍以下 (業界により目安は異なる) |
バリュー株(割安で安全)かどうか見分ける6ステップ
バリュー株投資では、なぜその企業の株価が安いのかを分析する必要があります。それ故に、バリュー投資は上級者向けとされています。
バリュー株を見分けるには次の6ステップを行います。
「ステップ1.スクリーニングで分析企業を絞り込む」
スクリーニングとは、バリュー株(割安株)投資の分析対象となる銘柄をある程度絞り込む作業です。
バリュー株投資の分析はある程度時間がかかるため、上場企業を全て分析していては時間が足りません。
スクリーニングを行うことで、無駄に分析する時間を省きます。
具体的なスクリーニングの方法は、株価純資産倍率(PBR)が1以下の企業を探すことです。
PBRとは
BPSが1倍未満であれば、今会社が解散して株主に資産を分配した場合、株主は投資額以上に利益として戻ってくることになります。つまり、数値が低いほど良い(株価が割安)ということです。
また、PBRは1以下にることは、安全域を確保することにもなります。
PBRは米国株投資には適さない!?
米国の企業は、日本の企業と違い株主還元に積極的です。
主な株主還元手法としては「自社株買い」をして株価を上昇させることがありますが、フィリップ・モリスやマクドナルドなどは純資産がマイナスになるまで株主還元に積極的で、その場合PBRがエラー値となり算出できないのです。
「ステップ2.企業体質ー過去の違法行為の確認」
PBRによるスクリーニングによって分析対象企業をある程度絞り込んだら、続いて過去の違法行為の調査を行いましょう。
過去の違法行為を調査する理由は、財務分析からは読み取れない損失の可能性を把握するためです。
大多数の企業は法律を守っていますが、違法行為を行ってしまう企業も少なからず存在します。
過去に違法行為を行った企業は、例えそれが小さな事であっても、将来も違法行為を行う可能性が高いです。
なぜなら違法行為を行ってしまう企業体質というのは、簡単に改善できるものではないからです。
違法行為にともなう巨額損失は、株価の大暴落という形で投資家にもダメージを与えてしまいます。
バリュー投資家であるならば、過去に違法行為を行った企業は投資対象から原則外しましょう。
具体的な過去の違法行為の調査方法ですが、Google検索などでネットメディア、新聞社のネット記事などを調べます。
「企業名+違法」「企業名+不正」「企業名+事件」「企業名+事故」「企業名+裁判」「企業名+罰金」「企業名+賠償」などのキーワードで検索してみましょう。
また、企業名だけでなく経営陣(代表取締役や取締役)の名前でも検索して下さい。
経営陣は会社の重要人物のため、違法行為や反社会的勢力とのつながりが無いかはチェックしましょう。
もし過去に会社や経営陣が違法行為を行った事実が確認出来なければ、次のステップに進みます。
「ステップ3.企業体質ー過去5年間の純損失の確認」
スクリーニングと違法行為の調査で自分のリターンに見合う企業をある程度絞りこんだら、続いて過去5年間の純損失がどれくらいなのか確認しましょう。
純損失とは株主に帰属する赤字のことで、純資産を減らしてしまう大きな原因です。
純損失の推移は分析対象の企業の有価証券報告書や決算短信のデータから確認します。
過去5年間の純損失で確認すべき点は2つあります。
- 純損失が発生しているのは過去5年間で1回以下か?
- 過去5年間の純損失の合計が、過去5年間の純利益の合計の25%以下か?
純損失が発生しているのは過去5年間で1回以下か?
純損失の推移で確認すべき点の1つ目は、過去5年間での純損失の発生回数です。
PBRが1以下の企業は元々何らかの不安要素(過去に大きな赤字を出したなど)があったためにそのような評価を下されています。過去に赤字が一切無い企業はほとんどありません。とはいえ、毎年赤字を出し続けている企業に投資する訳にもいきません。
よって次のように仕分けます。
- 純損失の発生回数が過去5年間に1回以下であれば、分析対象として残す。
- 純損失が過去5年間に1回以上の企業については、分析を一旦保留。
もしかしたら価値ある企業かもしれませんが、時間と資金は有限ですので他に価値ある企業があるのであればそちらに投資すべきです。
過去5年間の純損失の合計が、過去5年間の純利益の合計の25%以下か?
純損失の推移で確認すべき点の2つ目は、過去5年間での純損失の大きさです。
5年に1回の赤字であったとしても、その1回が他の年度の純利益を打ち消しては意味がありません。
目安としては、次のように確認してください。
- 過去5年間の純損失の合計額が、過去5年間の純利益の合計額の25%以下に収まるか
この25%以下という基準は、過去5年間の間で1年分の純損失が残り4年分の平均純利益を下回る、という目安から算出しています。
■ 「条件を緩める場合は、株式市場全体が加熱気味(バブル状態)ではないか必ず確認しましょう。」
純損失に関する上記2点のチェックポイントはあくまで目安です。
分析対象銘柄が他になくリスクを大きく取っても良い場合は、条件を緩めても構いませんが、条件を緩めると損失の可能性も大きくなります。
特に株式市場全体が加熱していると、財務状況に疑問がある企業でも高値で取引されていることもあります。
「ステップ4.財務体質ーBPS(1株当たりの純資産)の確認」
純損失の推移が問題無さそうだと判断出来たら、次はBPS(1株当たりの純資産)の推移を確認しましょう。
純資産は株主に帰属する資産ですから、しっかり増加しているかどうかを確認して下さい。
ただ、純資産は株式を追加発行して増やすことも出来るので、分析するのはBPS(1株当たりの純資産)にしましょう。
BPSとは
BPSの推移で確認すべきことは、過去10年程度の長期間で年間平均5%以上のペースで増加しているかどうかです。
あくまで年間平均なので、多少の減少はあったとしても問題ありません。
また財務データが10年も無ければ、5年以上のできるだけ長い期間で分析して下さい。
BPSの増加率が年間平均5%だとすると、10年間でBPSが約1.63倍になります。
BPSの増加率が年間平均5%以下だった場合は、分析を一旦保留しましょう。
「ステップ5.財務体質ー資本金等や利益剰余金の確認」
PSの推移に続いて確認したいのは、資本金等や利益剰余金の推移です。
資本金等や利益剰余金は、純資産を構成する項目の1つです。
資本金等とは貸借対照表の「資本金」と「資本剰余金」の2つの合計値の事です。
資本金等を簡単に言えば、株式発行の対価として株主から与えられた資金の合計額です。
利益剰余金を簡単に言えば、企業のこれまでの純利益や純損失の合計額です。
資本金等の推移で確認する点
- 過去10年程度の期間で増減していないか?
資本金等が増減する主な要因
- 資本金等の増加→銀行などから借り入れできずに仕方なく増資した。
- 資本金等の減少→他に削減するコストが無いので仕方なく減資した。
資本金等が増減する主な要因の共通点は、会社の経営があまり上手くいっていない状態であるという事です。
銀行が資金を貸さないのは、その会社から資金を回収できない可能性が高いと思われているのです。
小さな税コストを削減するのは、どれほどコストを下げても利益が捻出できないために行うものです。
資本金等が増減するのはまだ経営を立て直している最中であることが多いため、投資対象からは除外しましょう。
利益剰余金の推移で確認すべき点
- 過去10年程度の期間で利益剰余金がマイナスになったことがあるかどうか
PBRが1以下の企業だと、たまに利益剰余金がマイナスになっていたりします。
それは過去の累積した純損失によるものです。
利益剰余金がマイナスになるということは、純資産が資本金等よりも少なくなっていることを意味します。利益剰余金がマイナスである企業の全てを分析対象から外す必要はありません。
しかし、赤字を溜め込んできた過去から本当に脱却出来たのかを、注意深く分析する必要があります。
利益剰余金がマイナスになった原因を調べ、それが解決されていると言えるかどうか必ず分析して下さい。
利益剰余金のマイナスが資本金等より大きくなり、純資産自体がマイナスになっている状態を債務超過と言います。
そのため、利益剰余金がマイナスだからといって必ずしも債務超過であるとは限りません。ただ、利益剰余金がプラスの場合と比較すれば、債務超過に近い状態であるのは事実です。
債務超過の状態は会社経営が破綻寸前の状態のため、小規模の個人投資家が手を出してはいけません。
「ステップ6.そのほかのファンダメンタル要因ー各セグメントごとに影響力などを分析」
ここまでの分析を終えてまだ分析対象として残っているのであれば、バリュー株(割安株)投資の対象として魅力的である可能性が高まっています。
より深く企業のことを知るために、企業の事業内容を分析しましょう。
企業の事業内容を分析する際にはセグメントに基づいて分析します。
各セグメントの影響力の把握
セグメント別売上高と利益の推移でまず最初に確認すべき点は、各セグメントの影響力です。
多くの企業では事業内容を主力事業と関連事業に分類しています。
主力事業は1番売上高と利益が大きいセグメントになり、それ以外のセグメントは関連事業になります。
最新の有価証券報告書などに記載されている各セグメント別の売上高と利益の比率から、どの事業が主力事業なのかを把握しましょう。
各セグメント同士で売上高や利益はどれだけ連動するのか?
グメント別の売上高と利益の推移で確認すべき点の2つ目は、各セグメント同士の連動性です。
各セグメント同士の連動性を把握すべき理由は、経営リスクをある程度分散出来ているかを知るためです。
企業には、事業環境の悪化という経営リスクが常にあります。事業環境の悪化の具体的なものは、原材料の高騰や不景気による需要の減退などです。
事業環境の悪化により主力事業の売上高や利益が減少すると、比率が高いために企業全体の売上高や利益も大きく減少します。
そのような時に関連事業までも揃って収益を落とすと、企業全体として大きな赤字を生み出してしまいます。
一方で、事業環境の悪化により主力事業の収益が落ちても関連事業の収益がそこまで落ちなければ、企業全体としての赤字は小さくすることが出来ます。
理想を言えば主力事業の収益と関連事業の収益が全く連動しないことですが、そのような企業を見つけるのは至難の業です。
過去10年程度の期間で主力事業の収益が最小の年度を探し、その年度の関連事業の収益が主力事業の落ち込みをどれだけ支えられているか確認しましょう。
各セグメントにおける収益構造は?
セグメントの収益構造の分析方法は次の2つです。
- コストが上昇しても価格に反映させることができるか?
- 需要が落ち込んでも商品やサービスの供給量を抑えたり有効活用できるか?
上記の2点を全く満たせていない企業に投資することは、大きなリスクを取る事になります。
ここまで分析して投資を断念するかどうかは、他に分析対象企業がどれだけあるか?大きなリスクを取っても投資したいか?の2点を踏まえて判断しましょう
各セグメントの影響力や収益の連動度合を確認したら、各セグメントの収益構造を分析しましょう。
各セグメントの収益構造の分析方法は、コストが上がった場合と需要が落ち込んだ場合の2つの場合で分析します。
1)コストが上がった場合での分析方法
具体的な分析方法は、その商品やサービスを提供する販売先との力関係を調査するというものです。
コストが上がっても販売している商品やサービスの価格に上乗せできるならば、セグメントの利益はそこまで減少しません。
しかしコストが上がっても価格に上乗せできないならば、セグメントの利益が大きく減少することになります。
例えば生活必需品や市場占有率の高い商品であれば、価格に上乗せしても販売先は購入せざるを得ません。
しかし顧客が限られる下請け会社や競合の多い企業であれば、価格に上乗せするのが難しいです。
分析するセグメントの商品やサービスのコストが上がった場合の分析は以上の通りです。
2)需要が落ち込んだ場合での分析方法
需要が落ち込んでも商品やサービスの供給量を抑えたり有効活用できれば、セグメントの利益はそこまで減少しません。
しかし需要が落ち込んでもそれらができないと、売れない商品やサービスを提供できない人材を大量に抱えてしまい、セグメントの利益が大きく減少することになります。
具体的な分析方法ですが、商品であれば製造ラインを止めることができるのか、 サービスであれば他に有効活用できる場所があるのか、などを調べましょう。
例えば、工業系商品の製造ラインであれば、常に稼働し続けないと行けない機器があるかどうか調べましょう。
製鉄などであれば、炉の火を落とすと再点火に膨大なコストがかかるため、炉を稼働し続ける必要があります。
また、サービスの人件費であれば、提供先の分野以外でも人材を活用できるか調べましょう。
ある分野専門のコンサルティング会社であれば、その分野での需要が無くなった時に他の分野で人材を使えないと、人件費ばかりがかかる赤字会社になります。
各セグメントにおける競合他社との違い
各セグメントの収益構造を把握したら、最後に競合他社との違いを確認しましょう。
比較する競合他社の数は、セグメント別に5社程度を目安にして下さい。
5社も無ければ全ての競合他社を分析しましょう。
競合他社との違いの具体的な分析方法は、次の2点です。
・そのセグメントは競合他社と比較して、売上高や利益にどれくらいの差があるか?
売上高や利益を比較することで、そのセグメントにおける市場での存在感を把握しましょう。
競合他社と比較して上位3位までに入れていたら、投資対象としては悪くありません。
・そのセグメントは競合他社と比較して、優位性を持っているか?
売上高と利益だけでなく、競合他社が持っていない優位性があるかどうかも確認しましょう。
優位性は財務データ以外にも、公式Webサイトや企業への取材によって調べていきます。
優位性とは言ってもそれほど難しく考える必要はありません。
例えば先程のトヨタ自動車の金融事業のセグメントであれば、自動車ローンの提案を車購入のタイミングで提案できるため、銀行の自動車ローンよりも優位性を持っています。
優位性を複数持っている可能性もあるため、時間の許す限り優位性を調べていきましょう。
バリュー株にリスクを抑えて投資する方法
バリュー株は、銘柄分析に多くの技術と労力を必要とします。
バリュー株に、リスクを抑えて投資する方法としてバリュー株ETFがあります。
SPYV(SPDRポートフォリオS&P500 バリュー株式ETF)
SPVYはS&P500より割安とされる銘柄で構成されたETFです。S&P500の75%の銘柄で構成されています。
信託報酬は0.04%と保有するコストも低く、人気のあるバリュー銘柄のETFです。
S&P500に選ばれる優良株の中から割安銘柄を構成しており、バフェット率いるバークシャー・ハサウェイやユナイテッドヘルスグループ、ベライゾン、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど、日本人にも馴染みのある優良銘柄の分散投資を割安という切り口からできます。
VTV(バンガード・米国バリューETF)
VTVはバンガード社のバリュー株ETFです。
S&P500ではなく、CRSP USラージキャップ・バリュー・インデックスに連動しています。
組み入れ上位銘柄はジョンソン・エンド・ジョンソン、バークシャー・ハサウェイ、JPモルガン・チェース、P&Gです。
米国を代表する優良銘柄の中でも割安なもので構成されています。
信託報酬は0.04%とSPYVに並んで低く抑えられています。
お疲れ様でした!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
皆様も健康な投資ライフをお過ごしください。
今後も良い記事を書いていきたいので、引き続き応戦よろしくお願いします!
この記事の情報ソース
↓公式の決算資料