2021年前半のおさらい
2021年は、それまで絶好調だった株式相場が2月から暴落とも呼べるサイズの大きな調整後、大きく反発することなく、2021年を終えました。しかしながらこれは、小型株中心の見え方で、投資先によっては大きな印象の違いがあります。
それは、それぞれの指数を見比べれば明らかです。下のチャートは年初来の指数を並べたものです。
大局観では次のようなマーケットの主役の移り変わり(資金移動)がありました。
- 2020年から21年初までのハイテク、ステイアットホーム銘柄、小型株ブーム ⤴︎
- 大幅調整 ⤵︎
- シクリカル、リア充銘柄 ⤴︎
- 調整 ⤵︎
- 大型株 ⤴︎
- (次はリア充銘柄?)
代表的な銘柄のチャートを並べてみました。それぞれのテーマ性はあるものの、概ね傾向は似ていると思います。
1)ハイテク、ステイアットホーム銘柄、小型株
ハイテク代表 クラウドストライク(CRWD)
ステイアットホーム代表 ズーム(ZM)
ズームは期待されていましたが、結局いいところはありませんでした。
小型株代表 イーハン(EH)
2)シクリカル、リア充
シクリカル代表 モデルナ(MRNA)
リア充代表 デルタエアライン(DAL)
リア充銘柄は、一旦ワクチン接種開始前に期待で上昇していましたが、その後低迷しています。
2)大型株
大型株代表 アップル(AAPL)
FRBのインフレ対策の約束事
12の地区連銀(連邦準備銀行)を統括し、重要な金融政策を決定するのが、FRB(連邦準備理事会)という組織です。
日本の日本銀行にあたるものをアメリカでは連邦準備銀行(Federal Reserve Bank)と言います。
日本と違いアメリカは州の独立性が高いので、連邦準備銀行は1つだけではなく、全米12地区にあり12銀行存在します。これは地区連銀と呼ばれ、トップは“総裁”という役職になります。
FRBは、2020年8月に打ち出した新戦略と、それを踏まえたフォワードガイダンス利上げの開始(テーパリング)に厳しい条件を課しています。
1)最大雇用の実現、
2)2%インフレの実現、
3)その後しばらく2%超のインフレが続くという見通し
この3条件がすべて満たされない限り、利上げには「指一本」触れないことになっています。
そして、その状態に向けて十分な進展があったと判断されるまでは、資産買い入れの縮小「テーパリング」すら開始しない、という縛りも2020年12月に加えられました。
つまり、FRBをはじめ多くの中央銀行が目指しているのは「2%の物価上昇が、特別の理由なく日常に溶け込んでいる状態」で、一時的で特別な理由があるなら、物価が2%を超えて上昇してもインフレではないとされていました。
しかしながら、2021年7月14日公聴会でFRBバーナンキ議長は、当局が高インフレを一時的と予想しながらも、インフレが持続的だと判明し2%目標を著しく上回る場合には対応すると強調したため、マーケットの不安を煽り、一旦の相場の冷え込みを迎えました。
FRBによるテーパリング後の下落リスクについて
FRBが開く金融政策会合があり、それを“FOMC”と言います。FOMCは会合の名前になります。
このFOMCは年に8回ありますので、割と頻繁に開催がされています。
FOMCで話し合われた内容やFRB議長の発言が、世界経済を動かすことがあるほど、大きな影響力を持っています。
FOMCは、7名の理事と5名の地区連銀総裁の合計12人が投票権を持っています。7名の理事とニューヨーク地区連銀総裁は常任で毎年投票権を持っています。残りの4票をその他の地区連銀総裁で毎年入れ替わって投票権を持つというやり方です。
2021年は、シカゴ、リッチモンド、アトランタ、サンフランシスコの各地区連銀総裁が投票権を持つメンバーとなっています。
FRBによるテーパリングが確定されると、FRBによる「低金利が長期的に続く」というストーリーから株価好調が終了し金融市場への悪影響になるため投資家は警戒しなくてはなりません。
金融緩和からテーパリングまでの流れを次にまとめました。
前回のテーパリングの例(テーパータントラム)
テーパリングで市場関係者が大騒ぎする原因は、2013 年に発生したテーパータントラムの再来が恐れられているからです。前例を知っておくことはとても大切だと思います。
- 前回のテーパリングは2014年1月から開始
- 2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が議会証言で唐突に量的緩和縮小の可能性に言及し、市場は一時的に動揺(実際は、少し前に示唆があったが市場が無視して織り込んでいなかったため急な暴落へと発展)
- 世界的に株価が急落して米国長期金利は2.02%から約3%へと急上昇した。
- 米国株式は小反落にとどまったが、日本株の反落は大きかった(2012・2月〜アベノミクスの影響)。
- 日米共に株価は上昇基調に回帰した。しかし、商品市況と新興国の株価、債券指数は、長期の下落相場が続いた。
(政策面でも、新興国は中国の景気対策打ち切りや利上げなど逆風となった) - しかし、市場は結果的にテーパリング開始を折り込んでいきました。そもそもテーパリングを開始できるのは景気が回復しているからであり、テーパリングを開始した2014年のダウ工業株30種平均は年間で7.5%上昇しました。
米国の金融政策の転換は、いわゆる「ふるい落とし」により、業績や実需の裏付けのある資産への選別のきっかけになるからだと考えられます。
テーパリングに対する楽観視
市場が事前に織り込めば過度な警戒は不要と考えられます。
マーケットとは常に思惑が先行して動き徐々に耐性を付けていき、実際にその時が来てみると既に影響は織り込み済みと落ち着きを取り戻しているいうことがよくあります。FRBは過去にテーパリングを経験しているので市場との対話を丁寧に進めていくと考えられます。
テーパリングに対して「暴落が来るのでは?」と過度に警戒しすぎる必要はないのかもしれないと考えられる理由は以下になります。
- 実際に始まる頃にはある程度織り込まれていることが想定される
- 2014-過去の経験をマーケットは覚えている
- 2021年3月5月6月の騒動で織り込み済みの可能性
悲観意見
- 歴史的にSP500のシラーPERがすでに高水準38倍(2021/7/10時点)
- 物価上昇率が2%を超えて恐らく3.5−4%になる可能性(ブラックロック、フィンクCEO)
今後のマーケットに対する心がまえ
短期視点
現代投資理論(MPT)では、株式投資のリターンが債券など他の資産と比較して高い原因は、価格変動性(ボラティティ)の高さにあると考えられます。
市場関係者が大騒ぎして株価が上下に振れること自体が、長期の株式投資家に高いリターンをもたらす源泉だとする考え方です。
それゆえに、大騒ぎする市場関係者を見て長期の株式投資家といえども不安感が高まるのは致し方ないといえます。
投資の格言には「Fear Sells(恐怖心を煽ると儲かる)」という言い方があります。
長期の株式投資家は、不安感に耐えることが高いリターンをもたらす源泉なのだという事実を客観視すべきだという意味です。
長期視点
70代のベテラン投資家、ジム・ロジャーズ氏によると、S&P500に積立投資をしても儲からない時代が来るという視点もあります。
この視点は、長期金利の上昇時期、下落時期とバッチリ重なります。
今後金利が反転して上昇局面に突入した時、株式に暗雲が立ち上る可能性は否定できません。
基本情報
金利上昇とは?
米金利は、世界経済の中心である米国景気のバロメーターであると同時に、世界的なお金の流れやすさの指標でもあります。あらゆる資産価格に影響を与える指標ですので、今後も市場の注目が続くでしょう。
インフレとは?
実は、インフレ(持続的な物価上昇)の正確なメカニズムはよくわかっていません。(一時的な物価の上昇がなぜ持続的なものに転じるのか)
経済学的には「インフレ期待の上昇」によって説明がつくことになっていますが、逆に言えばインフレ期待というつかみどころのない概念インフレ期待は、それを推し量る多くの指標があるとは言え、最終的には実際のインフレで確認するしかないのです。
よって、インフレ期待の上昇でインフレが上昇するという説明は、トートロジー(同義語反復)の域を出ないこととなります。
近年になってようやく、インフレは完全に「貨幣的な現象」ではなく、実体経済の構造的な要因からも影響を受ける、という可能性を踏まえた議論がなされるようになりました。
構造的な要因の候補として、グローバリゼーションや情報技術の進歩など様々な仮説が言われていますが、決定的な答えは出ていません。
アメリカ金融危機から10年以上の間、米国のインフレ率はほぼ一貫して2%を下回ってきました。しかもその間、景気が悪かったわけではありません。むしろその期間のほとんどは「史上最長の景気拡大期」であったし、失業率も半世紀ぶりの低水準まで低下していました。
それでもインフレが上がらなかったという事実は重く、日本の場合は、1%をも下回る低インフレ基調が25年以上も続いています。日本が他国より圧倒的に早く低インフレになっていたのです。
情報ソース
https://www.resona-am.co.jp/oshirase/2021/pdf/210707_m.pdf