企業について、サクッと把握
深掘り ■ ビジネス、業績について ■
以下のポイントに沿って、公式資料から抜粋して深掘りしていきます。
*引用ボックス内は、目論見書(S-1)から引用しています。
NIOの歴史
創業2014〜2017年
NIOは2014年、現CEOである実業家ウィリアム・リー(中国名は李斌)氏によって上海に設立されました。設立当初の社名は「NextEV」です。
「青空がやって来た」という意味で、同社が世の中に送り出すEVが“深刻な大気汚染の解消”という社会課題の解決のために果たすべき企業の役割(ブランドミッション)を雄弁に物語っているとのことです。
NIOは起業の当初から競合相手を米テスラに設定、近い将来に中国国内からグローバルマーケットに打って出て、プレミアムなクラスのEVカテゴリーで真っ向勝負することを決意していました。
そして欧米発祥のモータースポーツ文化に賛同と参画を示す意味あいで、2つの象徴的なチャレンジを行なっています。
- 1つ目は2014年から開幕1年目のEVによるフォーミュラカーレース「フォーミュラE」への参戦。
- 2つ目は2017年、モータースポーツの聖地・独ニュルブルクリンクでの自社開発のEVスポーツカー「EP9」の世界最速のタイムアタックです。
1つ目については、自ら「チャイナレーシング」を名乗って世界を転戦しただけでなく、ファースト・ドライバーのネルソン・ピケJrが11戦中2勝をあげてフォーミュラEの初代ドライバーズチャンピオンに輝くという快挙を成し遂げました。
この歴史的な「事件」は中国国内のステークホルダーにも大きなインパクトを与え、テンセント、百度、京東、レノボ、セコイヤキャピタルなど錚々たる企業から総額2000億円以上とも言われる巨額の資金調達を行う呼び水となりました。
2つ目については、EP9(4輪それぞれにモーターを配置した「メガEV(出力1メガワット=1360ps)」)を開発し、2017年の5月12日に行われたタイムアタックで当時、ランボルギーニ・ウラカン・ベルフォルマンテが持っていた世界最速タイムを6秒以上も上回る6分45秒90という驚異的なタイムを叩き出し、当時の市販ロードカーの世界最速記録を塗り替えることに成功しています。
当初の生産台数は6台(トータルで20台の限定生産)、価格は120万ドル(約1億3000万円)という稀代のスーパーカーである。BMW本社のお膝元・ドイツのミュンヘンに開設したデザインスタジオで造形された流麗なデザインと相まって、プレミアムなクラスのスポーツカーであることの存在証明を行いました。
これらのチャレンジによって、NIOブランドに対する「期待」の度合いを極限にまで高めることで、エンゲージメント醸成のもう1つの因子である「時間」に頼ることなく、垂直的なブランド立ち上げに貢献したと言えます。
2018年9月米ニューヨーク証券取引所に上場〜
上場からわずか数カ月でNIOを取り巻く状況は暗転、この秋には販売台数の低迷から相次ぐリストラや資金不足に苦戦していました。
グラフからもわかる通り、ES8の新発売効果もあり、NIOは2018年の11月と12月、ともに3000台を超える販売実績を残すことができました。しかし、2019年に入った途端、業績は急速に失速しました。
その理由は3つあります。
- 中国市場におけるマクロ経済の悪影響、すなわちマーケットの成熟化と米中貿易摩擦による個人消費の停滞が直接の原因。
- 手厚い振興策でEV市場を支えてきた中国政府が2019年6月に突然、補助金を減額、例えばES8のような航続距離400キロ級のEVでは1台あたり5万元(約77万円)から2万5000元(約38.5万円)に半減させたことが大きく響いたこと。
- バッテリーから発火・発煙が相次ぐ事案が発生した時の、2019年6月末の「ES8のバッテリー発火事故による4803台ものリコール対応」で、自らの失策が業績低迷にとどめを刺したこと。
今回のリコール対応の場合、リコールに関わる約5億元(約80億円)とも報じられる特別損失と顧客対応だけでなく、事故原因についての説明がNIO側とサプライヤー側(寧徳時代科技)で大きく異なったため、NIOのブランドとしての「信頼」に大きな傷を残すことになりました。
2019年9月は新車ES6の市場投入効果もあり、NIOトータルの販売台数が2019台と回復を見せたものの、第2四半期(4~6月)の決算は32億8577万元(約500億円)の赤字に終わり、リーCEOはコスト削減のため従業員を9900人から7800人へ約2割削減することや、年末までに非コアビジネスをスピンオフさせる施策を発表しました。
マーケット(ユーザー)
中国の国策EV
中国はガソリン車の新車販売禁止を国策として推し進めていますが、他国と比較してEV化へのスピード感が抜きん出ています。
これは、以前から中国では農村部なども含め、EVがある程度普及していたという背景も関係していると思います。
また、中国は2025年までに新車販売に占めるEV車の比率を現状の5%→20%まで引き上げる目標を掲げています。
つまり、中国内でのEV車の販売量がこの5年間だけでも4倍になる計算です。
今後のEV車のシェア率予想は今のところ中国がトップ
また、2020年10月、世界で売れた新エネ乗用車(EV.PHVなど)の44%は中国市場がシェアを締めます。
「一帯一路」構想
「一帯一路」構想により、アジア〜ヨーロッパ〜アフリカにおいても中国の影響はすごい。思っている以上に中国の世界への影響は大きく、世界銀行や自動車業界などでドイツと仲が良く、特にアフリカへの浸透度は強力です。
中国のEV需要
中国は富裕層も多く高級車がステータスだと思われているため、本土では非常に売りやすいと考えられます。
ビジネス・モデル(テクノロジー、プロダクト)
NIOは、リーCEOが「スマートフォンのような会社をつくる」と宣言した通り、アップルのような委託生産型のファブレス企業であり、例えばバッテリーモジュールは中国バッテリー大手企業の寧徳時代科技(CATL:福建省)が供給、車両本体の生産は安徽合肥江淮汽車(JACモーターズ:安徽省)が担当しています。
EV事業
NIOのEVラインナップは、下のグラフからも分かる通り、他のEVメーカーに比べて1つのモデルの価格レンジが広いことが特徴です。これは、1つのモデルでグレード展開を実施しており、様々なニーズに合わせた幅広い選択肢を用意していることを表しています。
特定のクルマ(デザイン、セグメント)が欲しいのに、予算が合わないことが多いといった、これまでの自動車業界のラインナップの問題点を覆していると思います。
✅価格設定
【70kWhモデル】
・448,000元=約720万円
・サブスク(BaaS)使用で378,000元=約607万円 (BaaSは月に980元=約15000円)
【100kWhモデル】
・506,000万元=約812万円
・サブスク(BaaS)使用で378,000万元=約607万円 (1480元=28000円/月)
✅ラインナップ
NIOのEVラインナップはSUVメインで、最近セダンが発売されました。
✅フラッグシップ・セダンET7
- 時速100kmに到達するのに3.9秒
- システム規格は5G、 UWB、 Wi-Fi、 Bluetooth、V2Xに対応
- オーナーが近づいたら自動でドアの開閉、シートに冷暖房やマッサージ機能も搭載
- 1000W出力で23個のスピーカーを搭載し、7.1.4の没入型サウンドシステムを車内で実現
V2Xとは、車と何か(車や歩行者、インフラ、ネットワークなど)との接続や相互連携を総称する技術のこと。車のセンシング技術だけでは感知しきれない車や歩行者などを検知したり、ドライバーの快適性やインフォテインメントなどを向上させる優れもの。
- デュアルモーター四輪駆動
- 最大出力/最大トルク=480kW/850Nm
- Cd値(空気抵抗係数)=0,23
- ブレンボブレーキ付き。100km/h時のブレーキ距離は33.5m
- 寸法:長さ5.098 m、幅1.987 m、高さ1.505 m、ホイールベース3.060 m
NIO PILOT(自動運転システム)
NIOの自動運転システムNIO PILOTは、テスラと同様に無線アップデートによって性能が随時更新されます。
Mobile EyeQ4により、NIOもアップデートにより、自動運転レベル3までいける様になります。
現在はレベル4の開発も目指しているという、情報もあります。
世界初の車載AIシステム「NOMI」
NOMIとは、Amazonのアレクサのような人工知能デジタルアシスタントであり、感情表現が非常に豊か。NOMIも無線アップデートによって性能がどんどん向上していく優れものです。
「OK! NOMI」と話しかけると顔の表情や向きを変えて応答してくれ、エアコンの温度設定や窓の開閉、ラジオのチューニングや音楽の選曲、写真撮影など、用途は思ったよりも広いし、なかなか賢いようです。
画像のようにダッシュボードの真ん中に設置されていて、デザインはペットのように親しみやすくシンプルな物を採用しています。
バッテリースワップ事業(BaaS)
バッテリーが充電式ではなく「交換式」のバッテリースワップモデルであることも、NIOの特徴の一つです。この技術を柱に、バッテリースワップをサブスク事業化(BaaS)しています。
EVの車体とバッテリーを切り離し、バッテリーはリース形式にすることで、購入時に7万元(約108万円)を引いた値段で車を買うことができるとのことです。
バッテリースワップのメリットはEV車の弱点であるバッテリーの劣化の心配がなく、数分で交換が終わるため、充電式よりも圧倒的に早く補給が出来ることがあげられます。
現在のEVの要素の多くを締めるバッテリーに対しての、弱点を補いつつ適切に差別化を図っていると言えますが、インフラ(バッテリースワップ・ステーション)への初期投資は必須です。
NIOは現在、全国に159のバッテリー交換ステーションを持っており、既に118万のバッテリー交換を完了しています。「成長性」の項でも取り上げていますが、今後これは急速に拡大していく計画です。
テスラですら「バッテリースワップモデル」からは撤退していおり、NIOのバッテリースワップモデルは以前は物議を醸したらしいですが、このモデルの近年のビジネス成長は明らかなものとなりつつあります。
電池交換によるアップデートを前提とした設計であることもナイスな着眼点だと言えます。
「新しいバッテリー開発しました!交換するだけで航続距離が数百km伸びます!」とか簡単に出来ちゃうのは今のところNIOだけで、車体側の価値がバッテリーに左右されずらくなります。
そしてバッテリーの劣化がない=中古車市場も強いと考えられます。
他のEV車のようにバッテリーが劣化した中古EV車って個人的に買いたくないけど、NIOならその心配性はないので、車体の価値が保管されると思います。
150kWhのバッテリー
2020年10月30日にCEOウィリアム・リー氏は「NIOが900km以上の航続距離を実現するために、150kWhのバッテリーパックに取り組んでいる」と発表しました。
150kWhのバッテリーパックを使用すると、ES6の430kmの範囲が実質的に2倍以上になる性能ということです。
150kWhのバッテリーパックは、既存のすべてのモデルと互換性ありということで、ラインナップ全体の波及効果を期待できます。
また、100 kWhバッテリーパックの容量増強計画についても言及されています(NIOは現在70kWhと84kWhのバッテリーパックを提供中)
Worry-free Service Package(サブスク)
「快適なライフスタイルの提供」の一環として、「Worry-free Service Package」というサブスクもあります。
年約20万円を払うと「無料の修理・点検・洗車・送迎・運転代行サービス」等のサービスを受けられ、点検等で車を引き渡すときはスタッフが自宅まで訪れ、終了したら家まで戻してくれます。
NIO LIFE事業
NIOはNIOアプリ内(会員数は既に600万人)でEコマース事業を展開しています。
NIOのアプリにはSNS機能もあるため、オンライン・オフライン、どちらでもNIOユーザー同士繋がることができます。
NIOは、もはや「車」を提供するだけの存在ではなく、「ライフスタイル提案を主体としたEV販売」という素晴らしい取り組みを行っています。
これは、従来の仕組みで成り立っている自動車メーカーには、すぐに真似できることではありません。
NIOアプリ一本で食べ物・ファッション・家具等のライフスタイル製品をサポートしてくれる
更に、他社ブランドとのコラボもちらほら行われているようです。
中国は大手のEコマースが盛んですが、他国と違ってFacebookやインスタ等の使用が制限されているため、自社Eコマースサイトの顧客の確保は難しいと思われます。
その点、NIOアプリ内に「NIO Life」としてEコマースに手軽にアクセスできるようにしたのは本当に素晴らしい取り組みだと言えます。
NIO HOUSE事業
NIOは単に「車を売る場所」ではなく、NIOハウスという、「オーナー同士のコミュニティーの場や快適なライフスタイルの場」を提供しています。
中国市場は、北米のセラー販売店形式と違い、日本市場のようなディーラーを設置することが多いため、その文化にマッチしていると言えます。
成長戦略(CX戦略)
NIOは、ブランド体験として「OMO」(Online-Merges-Offline)の考え方をベースに緻密に構築されているます。
OMOとは、「お客さまのオンライン(デジタル)体験が、オフライン(リアル)体験を意識しないレベルでシームレスに抱合、融合した状態」のことを指しています。
IoT時代に入ると、モバイル端末、各種センサー、AIアシスタントなどが登場したことで、お客さまに余計な負担を強いることなく、お客さまの行動データをオフライン体験上でも取得することを目的としています。
このデータを利用して、NIOのモノづくりや在庫管理のデータなどと統合・解析を行うことで、様々なブランド接点でより魅力的なNIO体験を創出でき、それによってさらにNIOの各ブランド接点での集客力が高まって、結果的により多くのお客さまの行動データが集まる構造を生み出しています。
具体的に、次のようなユーザー体験が提供されることが想定できます。
- ライフスタイルや仕事、収入、思考、価値観に合わせたオススメ車両
- 「NIOハウス」にて、好みの飲み物を飲みながら、装備などのオーダーができる
- NIOのコミュニティづくりを促進する専用アプリで、プレゼントがもらえる
このようなユーザー体験は、創業者のリーCEOの「BitAuto」(易車)での成功体験がベースになっているみたいです。
「BitAuto」ではスマホのアプリを使って自動車の販売だけでなくカーライフ全般のサポートをサードパーティ企業と協働しながら一気通貫型で提供するサービスを展開していました。
成長性ニュース
成長性がテスラ超え
上のグラフはARK investによって作成されたもので、年ごとの納車台数で、NIOの3年目(緑色)がテスラ(水色)を超えていることがわかります。
バッテリースワップステーションの建設を加速するために国営インフラ企業と5年間の契約を締結
北京に本拠を置く国営インフラ企業と5年間のパートナーシップ契約を締結し、北京キャピタルリング高速道路沿いのバッテリー交換ステーションの建設を協力することに合意することを公表しています。
上海政府が10000個の既存の充電インフラをDC急速充電にアップグレードすることを計画!
このEV促進計画は、NIOだけでなくテスラ、シャオペン、リ・オート等、全ての中国市場のEV車にとって良いニュースですね。
また、この計画の中にはバッテリースワップステーションに対する補助も含まれている可能性があるとのことです。
NIOがJACとの合弁会社を設立する可能性
EV分野の高度な製造およびサービス管理、サプライチェーン等での協力を強化したい両社による合弁会社が設立される可能性があります。
合弁会社の事業範囲には、電気自動車および部品の製造、研究開発、販売等が含まれる様です。
また、JACもフォルクスワーゲンの子会社になっているため、3社間の将来の協力の可能性が存在するかも~と宣うアナリストもいる様です。ただし、JACは同意書に署名しただけで、合弁事業はまだ開始されていません。
中華EV三兄弟が投資銀行と協力し、香港上場の準備をしている
NIO⇒クレディ・スイス、モルガンスタンレーと協力
また、上海A株上場を検討しているとのことです。
- シャオペン⇒バンク・オブ・アメリカ、JPモルガンと協力
- リ・オート⇒ゴールドマン・サックス、UBSと協力しているとの噂
合肥市と新たな工業団地を建設するための契約を締結
合肥市がNIOと協力を深めるために契約を締結し、新たな工業団地を建設するためにNIOへ更なる協力を支援するとのことです。
工場の増設&拡張により、NIOの生産能力が60万台になる見込み!
新しい合肥工業地帯には、年間生産能力30万台の工場が建設される見込みです。
そして現在、生産工場として稼働しているNIO-JAC工場の拡張工事も始まり、15万台増えて合計で30万台の生産能力になるとの予想がされています。
現在、年間15万台の生産能力が、新工場+NIO-JAC工場の拡張工事で合計で60万台の生産能力になる見込みです。
第2世代のバッテリー交換ステーション
- 第2世代のバッテリー交換ステーションが北京のシノペックステーションで稼働する
- 既存のものよりも建築コストが低く、より多くのバッテリーを搭載可能
- NIOは今後より多くのシノペックステーションにバッテリー交換ステーションを建設する予定
- シノペックは既に30,000以上のガソリンスタンドを保有(世界で2番目)
2021年の第2四半期頃から、バッテリー交換ステーションの展開をスピードアップし、1日にほぼ1つの新しいステーション(250以上)を追加するとのことです。
マルコポーロプロジェクト
NIOはヨーロッパでも販売するために、暫定的に「マルコポーロプロジェクト」と呼ばれる海外部門を設立しました。
最初の海外展開となる、NIOハウスはデンマークのコペンハーゲンかノルウェーになる可能性があり、2021年後半に航海を開始する予定です。
さらに、NIOは2023年または2024年までに主要なグローバル市場に参入することを表明しています。
主要なグローバル市場とは、主に北米マーケットのことを指していると考えられます。
コンペティター(競合)
NIOとテスラの関係
2019年、NIOはテスラに救われていました。
2019年、特にNIOが苦しくて倒産しそうだった時期に、NIOのCEOことウィリアム・リー氏は、発注した生産設備をテスラ に売って助かっていたという過去があります。
その結果、テスラの上海での量産は6ヵ月も早くなり、株価の上昇もあって電気自動車に対する市場の信頼感が高まりNIOも救われた、という非常に良い関係を持っています。
イーロンマスク(テスラ)からの「 NIO おめでとう。(10万台生産は)すごいマイルストーンだね!」両ホルダーとして嬉しいといったツイートがありました↓
これは競合への皮肉ではなく、モデル3の量産で苦しんだ経験があるイーロンの素直な言葉な気がします。
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